心の準備をするから待って

 本気の恋なんてしないつもりだった。
 だって本気になるって疲れるし。どうせそのうち飽きて終わるだけ。だったらその日そのときだけ、楽しく過ごせるならそれでいい。ついでに気持ち良いことができたらラッキーでしょ。どんなに着飾った女の子だって、綺麗に引き締まった体をした男だって、タバコ臭い女だって金だけは持ってるオジサンだって、オレにとっては全部大して違いはないんだからさ。
 だからこれもオレにとっては遊びのひとつ。

「センパイちんこでっか」
 とうとう咥えきれなくなった先輩のモノをずるんと口から出した。ビキビキに脈打ってて血管も浮いてるのに、先輩はちょっと顔が赤くなったくらいで表情はあんまり変わらない。もともと無表情で何考えてるかわかんない人だけど、勃ってるし、多分気持ちいいんだろう。
 咥えている間にそこそこならしておいたから、正直早く挿れたくてたまらない。でも童貞だって聞いてたから、ちょっともったいぶってあげた方が親切かなと、先輩の手を取った。ラブホテルの安っぽいシーツに転がって、見せつけるように足を広げた。
「センパイ、見える? ここ。ここに挿れんの」
 あ、まずったかな。先輩ストレートのはずだったから、もしかしたら俺のちんこ見て萎えちゃうかも。でもどうせだったら見て欲しかった。ねえ、オレを抱こうとしてるってちゃんと認識してるかな。
 先輩、オレのこと好きって言ったよね。じゃあその気持ちが覚めちゃう前に気持ちいことはやっておきたい。くれるんだったら貰いたい。童貞捨てるのが男の尻とかちょっとアレだけど、嫌だったら忘れちゃえばいい。あ、萎えてない。よかった。
「ん……ぁ、あ……」
 先輩のがゆっくり入ってきた。準備できてるって言ったのに、やたら気遣うようにのろのろ進むから、ちょっともどかしい。
「そんな、優しくしなくていいよ。オレ別に初めてじゃないし」
「俺がそうしたい」
「あ、そ……」
 もっと好きに動けばいいのに。でもやっぱり先輩のは大きくて、ちょっと苦しいけどいいところに当たりそうで期待する。もっと強い刺激が欲しくて腰を揺らそうとしたら、ぐっと押し込まれて唇にキスされた。先輩オレさっきまで先輩のしゃぶってたんだけどいいのかな。ふにふにって唇が触れるだけの柔らかいキス。中学生かよと思っていたらそっと舌が入ってきた。人の体温は気持ちがいい。
 キスをして緊張が解けたのか、先輩の舌が口の中をゆっくりなぞった。絡ませるっていうより触るみたいな動きだった。されるがままだった腕がオレの腰や肩に回って、確かめるみたいに触られた。
「あとはどこだ?」
「え?」
「お前が、他人にからだを許したところはどこだ。俺がまだ触れていないところは」
 冗談だと思ったら、先輩は本気で言ってるみたいで、生まれてこのかた嘘はついたことがありませんみたいな顔をしていた。
「ええ、何、先輩オレのこと自分のものにしたいの」
「そうだ」
 あんまり真剣に言うものだからおかしくて、先輩のが入ってみちみちになってる腹を指差した。
「ここかな。ここに届いたやつはあんまりいないけど、センパイなら届くんじゃない?」
 なあだから早く動いてよ、そういう意味で挑発したつもりだった。
「わかった」
 ちょっと後悔することになる。


「あッ、あぁ、せ、んぱ……っ、も、ちょっとむり、ひっ、……ゆるして!」
「……? なにも怒ってない」
 そうじゃねーよバカ! いったいどれくらい時間が経ったのかわからないけど、決定的な刺激がないままゆるゆると抜き差しされて拷問みたいな仕打ちを受けている。今まで相手にしてきたどんな男よりもねちっこい。腹の奥限界まで入っているのに全然イけなくて下半身が溶けそうだった。
「もう動いて、って……しぬ……」
「そうだな」
 乳首なんかは舐め回されて吸われてちょっと腫れている。ここまで焦らされたのなんか初めてと言ってもいいくらいで、先輩の形を覚え込まされてるみたいで癪だった。
「っは、あ、ぁ……」
 やっと動いてくれる気になったのか、先輩のがゆっくりと抜けていく。しかし先輩やっぱちんこでっけえな。張ったカリが前立腺にひっかかってたまらない。ぱちゅ、と肉がぶつかる音がして、奥に押し込まれた。気持ちいい。
「あっ、んん、ふぅッ……!」
 やば、散々焦らされたから結構もうイきそう……。それは先輩も同じみたいで、ぐりぐり押し込むたびに眉根を寄せて気持ち良さそうな顔をしてる。
「沢木、さわき……ッ」
「あっセンパ、いいよ、出して……」
 先輩のが中でびくびくしててかわいい。先にオレがイったせいで中が締まったみたいで、先輩もオレの腹のなかにぶちまけた。ゴムはしてなかったからどくどく入ってくる精液に興奮した。
「……すまない、中に……」
「へ? いーよ、出してって言ったし。ま、オレが女の子だったらアレだったけど……」
「そうだな、責任は取る」
「は?」
 いや話聞けよ。責任って何? ないよそんなもん。一人で納得したみたいに抱きしめてくるのやめろ!
「好きだ」
「……さっき聞きましたけど……」
「俺のものになってくれ。お前が不特定多数の人間に体を許すことに耐えられない」
「はぁ〜?」
 冗談だろ。そんなの重いだけで疲れるし、何よりどうせ飽きるに決まってる。オレもそうだし、先輩も。
「なにそれ、センパイがオレの事満足させてくれるってこと? エッチへったくそなくせに?」
 ごめん、これはウソ。もう足腰立たないくらい良かったので体の相性は悲しいことに最高。どんな女の子相手にしたって満足させられるブツも持ってるし。
「努力する」
 まっすぐ見んな! みじめになってくる!
「嫌なら突き放してくれ。それでお前を恨んだりなどしない。ただ、寂しそうなお前はもう見たくない。……俺なら側にいると約束する。俺では嫌か?」
「…………」
 嫌じゃないと思ったから今メチャクチャムカついてる。とりあえずなんかすっごい大事なものをさわるみたいに抱きしめるのやめてくんないかな。
 返事はあと五分だけ待ってほしい。


木村先輩は沢木くんが思うより沢木くんのことが好き