約束の口づけ
口づけをしても構いませんか。
真夜中にふらりと現れたニコラスは、眠っていた新庄を優しく起こして呟いた。頭は半分寝ぼけていた新庄は、これは何かあるなと察して頷いた。
大人しく目を閉じると、柔らかい感触が唇に触れた。舌が入ってくると思っていたのに、ニコラスは確かめるように何度か唇を喰むだけで、月夜のようないやらしいキスはしなかった。
それでもずいぶん長い口づけをして、唇は離れる。
「……もしかしたら、今回は帰ってこられなくなるかもしれません」
「……?」
「少し危険な任務になりそうなんです。私は組織の中で優秀な人材であると自負していますが、生憎家族というものがいないもので」
「真っ先に切り捨てられるならお前だと?」
「ええ、まあ。組織も私を切り捨てたくはないでしょうし、努力はしますが、その」
少々、不安で。小声のニコラスは、本当にめずらしく、人間臭い顔をしていた。新庄の肩に額を寄せて、壊れ物を触るようにそっと腕を回す。
新庄は自分の唇を噛んで、ニコラスの顔を上げさせた。自分より分厚い唇に噛み付くように口付けて、無理やり舌をねじ込んだ。
拙い動きで掻き回すだけして、ぶっきらぼうに唇を離す。
「何を」
「許すものか。俺がお前の家族になってやる。死体が戻ってくるなどしたらお前のことを呪ってやるからな」
吐き捨てるように言った顔は真っ赤に染まっていた。怒っているようでもあった。
ぽかんとしたニコラスの頬を、新庄はつねった。
「生きて帰ってこい、木偶人形」
「ふ、ふふ、ええ、ええ! もちろん」
内藤さんだって不安な日くらいある