そんなご無体な

「はぁーっ、はっ……あ、せんせ……」
 熱い塊が根元まで入って、二重は谷地を見上げた。前髪で少し隠れた、灰色の瞳に欲が混ざる。だらしなく開いた唇からつうと唾液が溢れるのも構わずに、二重は開いた足を谷地の腰に擦りよせる。谷地は狭い肉壁に押し入ったまま、溢した唾液を舐めるように唇を合わせた。時折ちゅ、とリップ音をおとしながら舌を絡めた。うなじを骨の目立つ手でなぞられてぞくりと濡れた息を吐く。谷地は黙ったまま、二重の耳を噛んだ。
「ひぇ、」
「あぁ? ガキみてえな声出すなよ」
 耳元でくつくつと谷地が笑う。二重はといえば低い声が随分近くで鼓膜を揺らすものだから、どきどきしてそれどころではなかった。二重は谷地の背中に腕を回してそれを紛らわせた。
 耳の軟骨を舌で撫でられる。犬歯を引っ掛けるように甘噛みされて、吹きかかる吐息が背を震わせた。 
「だっ、だって……ぁあ、いっ」
 最後に少し強く噛まれて跡が残った。次はそのまま下へ。首筋を吸われて、鎖骨を噛まれた。うなじを撫ぜていた手はいつのまにかあごのラインをなぞって、喉へ。
「せんっ、せえ、うごか、ないの」
 頬を赤く染めながら、二重が吐息交じりの声を出す。中に埋められた熱は先程からほとんど動くことなく、後孔がじれったそうに蠢いた。
「動いて欲しいのか?」
「えっ……」
 ふ、と谷地が目を細めて笑った。
「あっ!」
 乳首をつねられて声が出た。以前は違和感ばかりで何も感じなかったのに、最近では抱かれるたびに開発されているようで、二重は羞恥に目を閉じた。ざらりと舌で舐められてまた声が上がる。
「っう、ぅ……っ」
 気持ちいいのか、目を閉じたまま眉根を寄せたが、不意にすべてを手放されて、二重はそっと目を開けた。谷地は意地の悪い顔をしていた。
「乳首、自分でいじってみろ」
「え、っ?」
 素っ頓狂な声をあげる二重の腕を、彼の胸に誘導させた。
「ほら、自分がいいようにしてみろ。そしたら動いてやるから」
「ふ、ぇっ、そんな」
 戸惑って泣きそうな顔で見上げたが、谷地は本当に動いてくれる気は無いようで、灰色の瞳に当てられてまた赤面した。それでも入れたままにされた腹の奥がもどかしくて、二重は震える手で胸の突起を触る。
「……ん、ぅ、」
 指先で摘んで、軽く押しつぶすようにこねて、引っ掻く。たまらずに小さく声をあげると、後ろに突き刺さっていたものがゆっくりと動いた。手前のしこりに雁首が引っかかって、二重の腰がびくんと跳ねる。
「あっ、ぁ、んぅッ!」
 泣き声で喘ぐが、律儀に乳首をいじるのをやめてしまうと動いてくれないので、二重は夢中になって捏ね回した。痛いほどつねってからじんじんするところを転がすのが好きだった。
「はっ、ぁ、あっ、あ……!」
 奥をがつがつと突かれるたびに高い声がまろび出る。必死で快感を追うので、中が精を搾り取るようにぎゅうぎゅうと収縮した。
「強く、抓られんのが好きか」
「う、んっ! せっ、んせ、がぁっ……よく、そうす、から……ッ」
「っそうか、」
「ぁああっ、み、ちやさんッ、みちやさん……」
 そうされた記憶をなぞるように、二重は手を動かした。うわ言のように名前を呼びながら乱れるさまは随分と婀娜っぽくて、谷地の背筋に汗が伝った。最奥をぬこぬこと押しつぶしてやれば、二重は快楽にのけぞって喉仏を晒した。
「んぅッ、あ、だぇ、それだめッ」
「好きだろ、ここ」
「ぃぁあっ! すき、すきらけどだめ、気持ちい……!」
 犬のように舌を突き出して嬌声をあげる。二重にとって気が狂いそうな快楽を逃がそうとしてつま先がぎゅうと丸まった。
「あ、あーっ、うぅう、ひっ、ぐ……」
 顔を涙やら何やらでぐしょぐしょにしながら、耐えきれなくなって谷地にしがみついた。戯れのように頬や喉を撫でられることにすらぴくぴくと反応していた。
「もうや、みちやさん、し、しんじゃうよう」
 ぐすぐすとすがりつく二重にふ、と満足そうに笑みを溢した谷地は、ひときわ大きい悲鳴をあげるのも構わずに腰を叩きつけた。
「ッ、あぁ……――ッ!」
 薄いゴム越しに精を吐き出して、震えながら余韻に浸っている二重の自身も抜いてやった。泣きそうな声を上げながら、ぱたぱたと腹にかかる精液にも体を跳ねさせた。まるで全力疾走した後のように呼吸を乱す二重の背を撫でて、自分に体を預けさせた。体温を求めるように二重が震えながら擦り寄ってくるので、谷地は額にキスを落とした。


意地悪