ねむる

 二重孫久は、転がる。
  寝てる間の話である。二重孫久ははっきり言って寝相が悪い。足や手が乱暴に動くたぐいのものではないのだが、しばしば寝ている間にもぞもぞ動く。どう動くかと言われれば、転がるのである。シンプルに転がっていくため、よく布団からはみ出す。幼少期からそうであったため、二重が普段使う寝具は布団である。ベッドを使えば十中八九落ちるからだ。
  しかし残念なことに、谷地道也の家にある寝具は全てベッドである。共に谷地と眠るようになってからは、二重は必然的にベッドで眠るようになった。男二人が寝ても余裕のあるベッドを、以前は谷地一人で使っていたと言うのでちょっとどうかしてるなと二重は思ったものだが、広いのならばお邪魔しようとそのまま同じベッドに潜り込んでいる。
  だが依然、二重は転がる。夜中にベッドから転がり落ちて目が覚めたことは一度や二度ではないし、なんだったらほぼ毎回落ちていた。その度に物音で谷地が目を覚ますので、谷地は対抗策として二重を抱えたまま眠るようになった。これには二重が困った。毎回がっちりとホールドされた状態で眠るのは窮屈だし暑いし、何より恥ずかしい。しかし、これから寒くなってゆく季節に風邪を引かれても困る、と押し切られて、一緒に眠るときは後ろから抱えられて眠るのが定例となった。
  初めはやんやと言っていた二重も、何度もしていれば慣れるもので、その状況に順応していた。そもそも別で寝るという選択肢はなかった。
  そして今日、当然のように二重は谷地の腕の中で眠っているのである。もぞり、と動く気配に、レム睡眠をしていた谷地がうっすらと目を開けた。腕の中の二重は体をこちら側に向けていて、谷地の寝間着をつかむようにした腕はまるで幼子のようだった。くうくうと鳴いて眠る様に、谷地はなんという阿呆面なのだろうと思ってから、また目を瞑った。
  心なしか、抱きしめる腕を強めながら。


ころころ